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Special Report05 患者さんとのマラソンゴールまで 浜松医療センター血液内科 科長 内藤健助先生

血液内科としてのやりがい

白血病は従来、治らない病気という位置づけでしたが、近年は抗がん剤治療や移植治療の進歩により治癒も可能となってきました。多くの患者さんが社会復帰できるようになり、患者さん本人やご家族の喜ぶ顔を見ることできるという点が、血液内科医の一番魅力的なところだと思います。死に直面していた重症の患者さんが元気に退院していくのをみると、日頃の苦労も吹き飛びます。

40歳代の急性骨髄性白血病の患者さんがいらっしゃったのですが、病院に初めて来られた時は病状が非常に厳しい状態でした。それでも抗がん剤治療で何とか病状を安定させ、社会復帰までもっていくことができました。入院当時、その患者さんには、まだ小さなお子さんがいらっしゃったのですが、退院後に少し大きくなったお子さんと同伴で病院にみえました。

うれしいですよ、やっぱり。患者さんのみならず、この家族を救えた事が。血液内科は診断や治療を血液内科の中だけでできてしまうことが多いので、患者さんと主治医でマラソンのスタートからゴールまで完走した気分になりますね。

白血病や悪性リンパ腫の治療は比較的長期にわたります。半年とかそれ以上になる事もあります。入院期間も長いので患者さんの病気になる前までの生活や仕事など、患者さんが関わってきた社会環境全体を見ないと治療を継続できません。働き盛りに病気になる患者さんが多くいますから。ご家族の負担も考えつつ、治療を継続する事が必要になります。

医師としての負担は?

いろいろな患者さんがいらっしゃいます。病気の性質上、社会的な事情も含めたところまで関わらないといけないことも多々あります。責任は大きいです。
 また、すべての患者さんで、治療が順調にいくとは限りません。医師自身にも精神的な負担があります。つらい部分も少なからずあります。ただ患者さんはもっと苦しんでいます。少しでも治るチャンスがあるのなら、最後まで患者さんと治療を考えていきたいと思っています。

穏やかな口調と優しい顔の奥に『何事にも動じない強い医師』の姿が見える。

浜松医療センター血液内科の特徴

浜松市内には聖隷三方原病院、浜松医科大学、そして当院があります。そのうち、天竜川以西の血液内科の患者さんの6割~7割が当院に来られます。血液関連の紹介患者数は、浜松で一番多いと思います。
血液悪性疾患に対する化学療法も、非常に多くの患者さんに行っていますが、同種造血幹細胞移植の移植件数は、静岡県の中でも多く行っている施設だと思います。若手の先生が中心となって同種造血幹細胞移植を行っており、多くの移植経験をつむことができます。 また浜松地区の他病院であまり診療されていない血友病患者さんの成人後のフォローアップや治療も多く行っており、県西部地区の拠点病院と位置づけられています。

Bench-to-Bedside、Bedside-to-bench

血液内科は、リサーチ(研究)の分野と患者さんのベットサイド(臨床)の距離が非常に近いことも特徴です。すなわちBench-to-Bedside、Bedside-to-benchの領域だといわれます。 たとえば白血病細胞は血液の中に多く含まれます。採血をすれば、白血病細胞を簡単に採取できるため、研究がやりやすいことが特徴です。このような背景から、血液悪性疾患の領域では、多くの新規薬剤が開発され、患者さんの予後が大きく向上しています。

また、血液内科の疾患では染色体や遺伝子の異常が重要であり、細胞表面マーカーの解析、PCR法などの新しい検査診断方法も臨床の場で多く用いられています。その結果は患者さんの治療方法や予後に直結しますので、それを主治医が十分に理解することが非常に重要になります。そのような際、大学院などの基礎実験でこのような検査方法を行った経験、解析をした経験があると、より深く病態を理解することができるのです。ですから、若手の医師は、是非、大学院で研究に触れてみることをお勧めします。現在、浜松医科大学では、大学院期間中は病棟業務をほぼ無くしていただいていますので、より集中して研究に打ち込める環境が整ってきていると言えると思います。

一方で、臨床に導入されるにはもう少し先の話にはなると思いますが、iPS細胞にも期待を寄せています。血液内科の分野でも積極的に研究がなされています。2011年の米国血液学会で京都大学の先生がiPS細胞から血小板を生成できたという内容が、その学会の注目されるセッション(プレナリーセッション)に採択されていました。これが実現していくと献血に頼らなくてもよくなるでしょう。輸血という概念が変わるかもしれません。 また、それよりもさらにハードルが高いですが、iPS細胞から造血幹細胞を作成できれば、同種造血幹細胞移植において健常人であるドナーの負担がなくなるでしょう。

お休みの日の過ごし方は?

土日は当番体制になっています。 休みの日は家族と一緒に過ごすことが多いですね。どうしても平日は夜遅く帰ることが多くなります。まだ子供も小さいから既に寝ていますね。ですので、土日にしっかりと家族の時間をとって、その分を取り戻すようにしています。ただ、どうしてもいろいろな事務的仕事も多く、残務処理のため病院に来なければならない時もあります。それでも、自分から積極的に休みを取るように心がけています。そのようにしないと若手が休みづらくなると思うので。すべてのスタッフが気持ちよく働ける環境にすることが自分の役目だと思っています。
その成果もあってか、若手からは、『メリハリがあって働きやすい』と嬉しい言葉をもらっています(笑)

茶目っ気たっぷりに笑う内藤先生に同科の安達先生の他、スタッフの信頼が集まる様子がうかぶ。

メッセージ

6年生の選択ポリクリで血液内科を選択してくれた学生さんには実際の患者さんを1~2週間担当してもらっています。疾患を理解することももちろん重要ですが、患者さんの診察や問診を通して、患者さん自身と深く関わってもらうことで、血液内科という分野を理解してもらっています。
血液内科は、今後も治療に大きな進歩が期待されています。診断というスタートから治癒というゴールまで、自分自身の腕で患者さんを導くことができる分野です。是非、一緒に働きましょう。
他大学出身者の皆さんも(私も、浜松医科大学卒業ではありません)見学を受け付けていますので、遠慮なくご相談ください。